新医療 論文

私の論文が投稿されました。
できるだけいい医療を提供できるよう更に勉強して行きたいと思います。
また、本年度も最新のCTの導入を検討しています。地域の皆様にお役にたてればと思います。
[:嬉しい:]

我々の地域医療戦略と最新画像診断装置が果たす役割とは・・
                 
『病院の大きさ=病床数という概念は捨て、
我々に何ができるか、何が必要かを考え、迅速に実行すべし』

要旨:最新画像診断装置の導入はリスクを伴うが、選択は迅速かつ大胆である必要がある。我々はその導入と総合診療医の育成および意識改革によって、地域の全人的な急性期医療を担う中核病院であることを病院運営戦略とした。

地域性と我々の目指す医療戦略とは

私ども、山王台病院(図1)は、茨城県のほぼ中央の石岡市にある。茨城県は大きく県南、県北と2つの文化圏を有するのが特徴で、南は都心に近いこともあり県北に比べて人口が多く、急性期病床が比較的充足されている。また、筑波大学や東京医科大学病院などの教育機関が多く、その為医師数も多い。一方、県北地区は人口密度も低く、人口に対する医師数も全国ワースト1に近いものがある。
石岡市は、上記の土浦・つくば市を有する県南地区と、独立行政法人国立病院機構 水戸医療センターや水戸済生会総合病院などを有する県庁所在地である水戸市を中心とする県北地区の「はざま」にある。しかしながら、古くからひとつの生活および文化圏を形成しており、医療においても近隣の市町村から患者が集まり、対象となる人口は当市を中心におおよそ18万人程度と試算している。
病院運営にとって最も重要なのは地域ニーズに答える事で、それにより多数の患者が利用すること、その『mass effect』である。
石岡市は1986年の第一次病床規制より、既に一般病床を100床程度以上持つ病院を作ることができず、いわゆる総合病院を構築することは難しい。そこで、当病院は総合診療科を充実させることを試みた。充分な設備を備えることと総合診療医師育成教育・意識改革を行うことによってこの地域の全人的な救急・急性期医療を担う中核病院であることを目標とすべきと考えた。
その裏付けとして、総合診療科を担当する医師を中心に、さらに消化器科、腎臓内科、脳神経科、循環器科、呼吸器科医師といったemergencyに必要な診療科のエキスパートを揃えることと、最新画像診断装置を整備することが重要と考えた。しかも大学病院を有する地域の医療と同等でなければならないとするならば、当然のごとく、その設備の水準を超えることすらあっても、下回ることがあってはならない。つまり地域の急性期医療においてプライマリーケアから最終医療機関となり得る役割を果たす必要がある。
ここには現在抱える地域医療の衰退に対する立て直しのヒントがあると考えられる。

最新画像診断装置の病院運営に果たす役割―機種の選択は大胆かつ繊細に

病院運営は、日本では経営戦略を声高らかに優先すべきではないようだが、地域の医療戦略の成功が必然的に運営の安定化に結び付くものと考えられる。そのために、まず人材の確保と育成面では、医師、スタッフが現在の医療情勢の中で、この地域でどの様な医療を提供すべきかを理解することが重要である。最近の医療スタッフの勤労意欲調査でも、まさに満足できる医療の提供とその技術の習得が一番とされており、医師をはじめ、スタッフのいわゆるプロ意識を高める必要がある。
さて、最新画像診断機器を充実させることは、医師の実際の診療の正診性を高めることはもとより、主に大学病院で研修を受けた医師にとって、同等のレベルの設備がないという不安を取り除くことにもつながる。これにより医師のストレスが軽減され、さらに読影能力向上のトレーニングによる満足感を得ることができる。また、前述の理由により、医師やスタッフの意欲や定着率の向上はもとより、患者のたらいまわしの回避につながることとなるのである。私の経験でも新病院開設当時、院内に存在するレスピレーターがたまたま全て利用されていた日に、当直医が救急搬送をその理由のみで断ったことがあり、その後必ず2機のレスピレーターをフリーにするようにしたことを思い出す。つまり、図2のようにMRIの撮影件数は3Tになったことにより倍増した訳ではなく、過剰なオーダーをした訳でもない。したがって直接的なものではなく大いなる「付加的価値」に期待している。
経営面においての機種の選択について言及すると、最新画像診断装置は ?タイムリーであること。つまり新しい機種、特にクリティカルに変わった時、−例えば多列CTが出た瞬間や3TMRIが安定した能力とソフトが整った時期であること、?周囲の医療機関に導入されてないこと、?アピールできる装置であること。 つまり前述の大いなる付加的価値、宣伝になるもの、?コストパフォーマンスに優れていることなど、多岐にわたって検討して選択すべきである。
これらが非常に高額であり経営にとってリスクがあることは、当然である。我々の一例を紹介すると06年の循環器センター設立計画時には循環器特に心臓カテーテル専門医の常勤医師が決まっていなかった。正確にはキャンセルされた。しかし、あえて無謀ともいえるセンター設立という虎穴を選び、その後成功に至った。当地区に緊急心臓カテーテルができる医療機関がなかったことが最も重要な要因であったが、100%の成功の見込みはなくとも虎穴に入る覚悟も必要である。

最新医療機器の役割とスペック ―客寄せパンダではない!―

本来、画像診断装置の進歩とは、その正診率を高めることと同時に低侵襲性を追求することにあると思われる。minimally invasiveと正診性の両立、それがいわゆる高度診断装置と言われるものではないか。我々地域医療の最前線に従事する者にとって、日常診療において最も重要なことは早期かつ正確な診断をすることであるが、患者に対して負担がかかってはならない。ここでは多少古くなるが当時は革命的であった、06年に日本で初めて導入したPhilips社製Brillance 64(心拍数同期型64列MSCT)と、11年に日本では埼玉がんセンターに次いで導入したPhilips社製3tesla ingenia digital dStream full Coil 、そして普及率は低く所有する医療機関が少ないGiven Imaging社製Pill cam®SBカプセル内視鏡について言及してみる。

・Philips社製心拍数同期型multi slice CT「Briliance64」
近年極めて増加傾向にある冠動脈疾患に対してのcoronary CT angiographyはPhilips社製Brillance64心拍数同期型のものが診断のためのCAGにどの程度取って代われるかが検討されているが、成熟した循環器医がCAGと比較検討することによって読影能力が高まり、さらに画像ソフトの進化によってその正診率は極めて高くなりつつある。
また現在では、撮影技術の成熟によって造影剤を50?程度に抑えることができ、最新型の64列MSCTは、一度に0.625?の断層画像データを最大で64枚同時に撮影することができる。撮影速度も高速0.35秒で、撮影範囲も16列の10?から40?と大幅に広がり、高精度な立体(3D)画像・断層画像が得られる。特にPhilips社製のものは、当時稼働している他社製のものに比べ独自のコンピュータープログラムの搭載によって短時間で広範囲に、高度・高精細な画像の描出が可能となったといえる。
また、当院導入の機種は脈の乱れが起きても安定した高画質が得られるメカニズムを搭載しているため、不整脈の方や精神的に動揺しやすい方でも脈拍をコントロールするβブロッカーを使用せずに検査が可能となる。実際にβブロッカーの使用はしていないが、心臓の拍動に影響されずにブレのない高画像が立体的に得られている。
撮影時間も従来の機種より短縮され、心臓であれば5秒前後息を止めていれば可能となる。造影剤を使用する点ではカテーテルと同じであるが、検査自体も1分以内で済み、外来での待ち時間中に検査を終えて帰宅でき、患者様にも優しく安全な検査方法である。

・Philips社製3T MRI-「3tesla ingenia digital dStream full Coil(図3)」

12年導入のingenia3.0Tが誇るfull digital Coilはがんの早期発見に力を発揮し、PETに代わる検査となるだろうか。
全身のがんを見つけるスクリーニング検査としては、10年位前からは「PET」が有効だと言われてきた。しかし、PETはがんの種類によって得意、不得意があり、放射性物質(FDG)を注射する必要があるため、放射線被ばくのデメリットがある。MRIによる「Body Diffusion」は全身、主に肺・肝臓・胆嚢・膵臓・乳房・前立腺やリンパ節の腫瘍の存在を確認することが可能と言われている。今まで1.0Tや1.5TのMRIでは、信号が弱く実用の域に達していなかった。しかし、従来の2〜3倍の磁場強度を持つ、3.0TのMRIによるBody Diffusionにとても大きな期待が寄せられている。
また、Body Diffusionだけでなく、様々な分野で強力な磁場の力が発揮され、以前の1.5Tと比較して、見えていた血管はよりくっきりと見え、更に今までは見えなかった細かい血管まで画像化することができる。3.0TのMRIならば2?程の小さな動脈瘤をほぼ無侵襲で発見できる。くも膜下出血を惹起する動脈瘤は5?以下のものが多く、したがってその診断価値は極めて高い。
 さらに診断が困難な肝、胆道、膵疾患領域で3.0T MRIによる膵管・胆管が明瞭に描出され、これまで早期発見が困難だった膵・胆道・胆管癌の診断にとても有用となる。MRIによる膵管・胆管が明瞭に描出され、このように、従来のMRIがあまり得意でなかった腹部領域でも信頼性の高いものとなった。

・Given Imaging社製カプセル内視鏡「Pill cam®SB」

カプセル内視鏡検査とは、大きめのビタミン剤サイズの超小型カメラ内蔵のカプセルを口から飲み込むと、そのカプセルが消化管を通過しながら内部撮影を行う検査である。飲み込まれたカプセル内視鏡は消化管を通りながら小腸内を撮影。撮影された画像は、腰に取り付けたデータレコーダーに保存される。カプセル内視鏡は、使い捨てタイプで、排便時に自然に排出される。
従来の小腸検査に比べ苦痛がほとんどない検査で、検査中は日常生活が出来る。検査開始2時間後から水、4時間後から軽い食事を摂ることができる。
カプセル内視鏡検査は、従来他の小腸検査では見逃されてきた病変の検出が可能であることを証明した。特に原因不明の消化管出血のうち小腸腫瘍が発見された症例は約9%にのぼり、そのうち約半数が悪性腫瘍であったとの報告もあった。
1個のカプセルを飲むことで小腸内視鏡検査ができ、原因不明の消化管出血の原因が明らかになり、さらには早期診断、早期治療の可能性も高なる。
以上当院の最新画像診断機装置の一部を紹介した。

最後に病院運営において最新画像診断の導入も含め、あくまでも重要なことは「患者にとって有益なことは何か」を優先させることで、経営ありきであってはならない。

引用文献
1 郡司正人ほか:勤務医の4割が週60時間以上の労働〜
「勤務医の就労実態と意識に関する調査」調査結果〜
2 船山裕士ほか:非特異性腸潰痕の外科治療 日消外会誌19(12)2390-2396 1986

図-1

図-3

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